2012-03-16

空と山のあいだ / 田澤 拓也

空と山のあいだ―岩木山遭難・大館鳳鳴高生の五日間 (角川文庫)空と山のあいだ―岩木山遭難・大館鳳鳴高生の五日間 (角川文庫)
田沢 拓也

角川書店 2003-01
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2009年盛夏の折、津軽富士、岩木山に登った。
頂上に至る手前に建つ鳳鳴ヒュッテ前で小休止、掲げられた掲示の文言を目に止め、その避難小屋が立てられた事情を知る。

昭和39年1月、冬季岩木山で起こった遭難事故、その一部始終を取材したノン・フィクション書があるのを知ったのはしばらくしてから。文庫にもなっていたようだが、既に絶版となっていた。
以来、古書店を覗くごと、捜索対象の一書としていたところ、先日、近在のBookOffにて発見、ようやく入手できた次第。

当初、山書としての興味が第一、そんな感覚で入手したもの。ページを繰り始めると案に相違して、読み物としての完成度の高さ面白さに魅せられ、一気に読み通してしまった。
遭難に至る過程から、救助にあたる警察や山岳関係者の捜索活動の不備、遭難者家族の心象、悲運の終章まで、読み進めるごと次第に高まる緊迫感は尋常ではない。

山書との視点からすれば、ありきたりな山ヤさんへの縛めの書となりそうだが、むしろもっと普遍的な視点から、人の営みにふとしたことから介在する自然の脅威のお話と捉えるのが適切かと。

NHKの日本の名峰、岩木山の巻では、田植えの季節、農家の夫婦が豊穣を祈願すべく赤飯とお神酒を供え、田園の先に神々しく聳える岩木山に向かって、礼をして柏手を打つ姿が印象的だった。
山岳信仰の山として、土地の人から大切にされている様子が窺える。

最終章の末尾に綴られている遭難者の母親の言葉を引用、

「これくらいの山で遭難して、などとは思いません。私はあの岩木山という山が大好きで、一時は毎朝起きたら岩木山が見えるところに家を建てて暮らしたいと思ったこともあるほどですよ。息子を奪られた山だとか、迷って死んだ山だなどとは、ちっとも思いません。やっぱり津軽の人たちが毎日”今日はいい天気だな”などと言って見上げている山なんだもの。本当にいい山ですよね。」

私が滞在したのはほんの数日、それでも市内から幾度も眺めやる度、容姿端麗な独立峰、岩木山はホントいい山やなと思いましたね。


岩木山 from 弘前市内


鳳鳴ヒュッテに掲げられた銘板


鳳鳴ヒュッテ 2009年7月末

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