ドキュメント気象遭難 羽根田 治 山と溪谷社 2003-05-01 売り上げランキング : 253834 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
御嶽山本の後、年初に読了したもの。
山岳関連の書籍や雑誌やサイトでは、著者の書いたものはよく見受けられ、目を通している。
気象遭難という題材に面白く読了したとしてしまっては語弊があるも、紹介されているいずれの事象も興味深いものばかりでスラっと読み終えてしまった。
自らの備忘録&他山の石とすべく、本文から幾箇所か引用し記しておく。
より理解を深めるための配慮なのだろう、各章とも、遭難事例の内容に加えて、専門家による気象解説と地上天気図、雲の画像が添えられている。
春・沿海州低気圧 谷川岳ー雪崩
登山のエキスパートらが登攀時に遭遇した雪崩が主題。
「事故の要員となった雪崩は、沿海州の低気圧に向かって南風が吹き込んで気温が上昇し、雪が緩んだことによって引き起こされた。」(同書より引用)とある。
春へと移ろう時期はその雪質の見極めが重要。まあ、これは容易ではありませんなあ。
春・春の嵐 伊那前岳ー突風
「この事故に関して言えば、遭難者は強風に吹き飛ばされて亡くなったとしか考えられない。断定はできないが、事故当時の状況からして、おそらくその可能性が最も高い。」(同書より引用)、
人間をいとも簡単に舞い上げるような風が吹く状況は想像し難い。
そういえば、立山での2度目の春山山行の折、撤収時に雷鳥沢キャンプ場から室堂までの間で終始強風に苛まれたことがあった。テント泊の重めの装備を担ぎつつも、吹き飛ばされそうな風の威勢に怯みっぱなしだった。少し進んでは幾度も耐風姿勢を繰り返し、標準の所要時間を大幅に上回るペースでどうにかこうにか室堂に至ったことが思い出される。
「そもそも中央アルプスでは、三月半ばから四月にかけて猛烈な風が吹くことが多いのだそうだ。そのなかでも2911メートルピークから伊那前岳にかけての稜線上は、とくに風の強いところだと言われている。しかもそういうところでは、地形によっては吹き上げ風が発生するのだと、(略)」(同書より引用)。
「たとえば同じ場所、同じ次期でも、山の状況は気象条件で全然違ってきちゃう。だから山で自分の安全を確保するためには、まず気象の変化による山の状況の変化に自分の技術で対応できるかが大事になってきます。昔の登山者がいちばん恐れたのは気象ですよ。今の登山者は、気象の変化に対する危機感を全然持っていない。気象の変化から自分の身を自分で守るための危機管理の意識が、間違いなく薄れてきています。今回の事故はその延長線上にあるといっても過言ではないと思います」(同書より引用)、
私らみたいな中途半端な中高年登山者にとっては耳に痛いメッセージではある。
この事例の起こった日時は、2002年3月21日のこと。現在運行を休止している千畳敷ロープウェイが来月後半に復旧するとの報に、4月半ばの木曽駒ヶ岳山行を計画していたり。心してかからんとあきませんね。
夏・雷 塩見岳ー落雷
中高年登山者を主体としたツアー登山での事例。唯でさえお任せの雰囲気はあったでしょうから、個々の登山者の天候観測の力量以前の問題で、予測しがたい状況で最悪の事態に至ったってことだろうが、主催するツアー会社の責任が大ではあるかな。蛇足となりますが、個人的にはね、山行の全幅を他者に委ねるような登山はしたくないというのがホンネのところ。
「山で落雷事故に遭わないようにするには、雷の発生を予知して逃げるのがいちばんだ。そのためにも山行中には毎朝毎晩、天気予報をチェックし、行動中には観天望気に注意を払うようにしたいものである。」(同書より引用)。
観天望気とか気象に関する知識については、著しく欠落しているのを自覚していますから、実は偉そうなことは言えない。
夏・台風 トムラウシ山ー低体温症
本書が出版されたのは2003年となっていますから、2009年の近年稀にみる死者をだした遭難事故以前のこと。同じトムラウシ山にて、規模は違えど2009年の事故と似通った状況下での低体温症による遭難事例である。2009年のがツアー登山で本書の事例は自主山行、との違いはあるものの、どちらの場合も根本は、悪天候の中を行動するべきではなかった、につきるよう。過酷な状況において、如何に判断し行動するか、あらためて考えさせられる。
同事例の同日に居合わせるも、何らかの対処をするでもなく、登頂を優先してそのまま通りすぎた登山者のあり様について、地元・北海道新聞の記事が紹介されている。短文ながらいささかショッキングなのが印象に残る。
「〈あの朝登頂したすべての登山者に問いたい。あなたがたは、下半身を寝袋に包み、あおむけに横たわっている女性のわきを通りすぎたはずだ。声はかけたか。手は合わせたか。その後、極めた山頂での気分はどうだった。せめて、後味の悪さぐらいは感じたか〉」(同書より引用)。
山行では常に危険と隣り合わせ、相身互いが前提となりましょう。自ずと良識を持って行動したいもの。
秋・太平洋沿岸低気圧 立山ー凍死
中高年登山者の大量遭難事故として、よく引き合いに出される事例ですから、既知ながらも事故の詳細を知るのは同書によるところが大。
当時、救助にあたった内蔵助山荘オーナーの言、
「装備云々よりも、引き返す決断力があったかどうかに尽きると思います。まず勇気を持って引き返すことができたなら、この事故は防げたんじゃないですか」(同書より引用)。
尚、この章では中高年登山ブームについても言及されている。
冬・西高東低 剱岳ー異常降雪
冬・二つ玉低気圧 剱岳ー暴風雪
剱岳の事例については、どちらも厳冬期の先鋭的な登山における事故が対象となっていて、いわゆる冬剱の苛酷さを再認識するばかり。
気象の事象については読み解くものの、厳冬期の剱岳山行のあり様ばかりに興味が向いてしまっていけません。
憧れはありますものの、厳冬期の剱岳に自ら臨もうとすることについて、その実効性を云々しようとするほど無知ではないと自認してますし、所詮、冬剱なんて高嶺の花。敷居が高いレベルのお話ではもうとうなし。
技術や体力はもとより、山行に数週間もの期日を確保するなんてのもあり得んし。 いつか、GWの時期にでも行けたらなあ、などと密やかに考えてみたりはするものの、先ずは夏の課題を済ませてからとなるか。
総じて、ネガティブな情報は棚上げとするスタンスでは、安全(?)登山は成り立たず。そういう意味では、こういった書籍は参考になる(はず)。
山でのリスク回避するためには、経験に裏付けされた知識と技術にもちろん体力も不可欠。体力ともどもオツムの方も鍛えていくよりなしか。けどオツムの方は無理そうな…。